Bremen版Marie Antoinette感想の3回目をお送りします。前回はこちら。
贅沢な宮殿から薄暗い通りに場面は変わります。「100万のキャンドル」のシーンで倒れて息絶えた貧しい母親が残した二人の子供を慰めようと、Agnés Duchamps(アニエス・デュシャン:Maike Switzer)が歌う”Still, still”(流れ星のかなた)。この歌をきっかけにMargridとAgnésの再会が果たされます。Maike SwitzerはElisabeth来日公演でGräfin Esterházyと、毎週月曜日にElisabethを演じていたので、ご存じの方も多いでしょう。余談ですが、母親役を演じたLisette Grootも、アンサンブルとしてElisabeth来日公演に参加しており、パンフには同時期東京で上演中だった東宝版MAの舞台を観劇したと載っていました。
ドイツ語の歌詞を日本語訳にすると、一つのメロディーに乗る語数が少ないため、内容が1/3程度に減ってしまうと良く言われますが、”Still, still”と日本語の「流れ星のかなた」に共通しているのは歌が持つ雰囲気というかエッセンスだけで、歌詞に使われている言葉はかなり異なっています。ドイツ語には「星」は全く出てこず、代わりに「天使」が歌のキーワードになっています。大意としては「あなたの中にいる天使の声に耳を澄ませて。あなたの痛みや悲しみは天使が知っている。その痛みは辛いけれど、やがては全てが良くなると天使は言っているわ」という感じです。日本語の歌詞は英語版の台本から起こされたそうですが、英語とドイツ語の歌詞が全く違うのか、あるいは日本語が(いい意味での)超訳なのかが知りたいです。超訳だとしたら、”Alles wird gut”(全ては良くなる)を「信じて、明日は幸せ」と訳すセンスは素晴らしい!
この場面では台詞部分にも新事実が続々登場。元々は存在していた内容が、日本語化の過程で消えたのかもしれませんが、Margridの学費が入った封筒には皇帝の紋章が入っていたこと、Margridが11歳の時に仕送りがなくなり、修道院学校を追い出されたこと、そしてその年、1765年はオーストリア皇帝が亡くなった年だったことが、Agnésの口から語られます。
舞台の下手でMargridとAgnésが再会を喜び合う一方、上手にはCagliostroとMadame Lapinが登場します。舞台中央には、娼館の建物が出現しています。コインを投げてMargridの注意を自分達に向けさせたCagliostroは、Madame Lapinに「この娘はお薦めだ」と話しかけます。最初は渋っていたLapinも、「綺麗に磨いて服と髪をちゃんとすればいけるかも」とその気になります。更に「この娘は王妃に似ている」と言うCagliostro。Margridと王妃がよく似ていることは原作の重要ポイントで、結末にも関係してくる要素でした(原作の最後はミュージカルとは全く異なります)。それが東宝版ではとってつけたような姉妹設定に置き換わってしまったのは、恐らく出演者の問題なのでしょう。日本でもBremen版のように王妃とMargridを同世代の役者が演じていれば、作品の印象が随分変わったと思います。勿論東宝版の出演者は皆さん素晴らしい熱演でしたが、主要な役でも基本的にオーディションで決まるドイツ語圏ミュージカルとは違い、日本のミュージカルではお客さんを呼べるキャスティングがまずありきで、作品にとってのベストな配役がなかなか実現しないことが残念です。
LapinとCagliostroの言葉に興味を持つMargrid。「ここは娼館、あなたに売春させようとしているのよ」と警告するAgnésを意に介さず、CagliostroとMadame Lapinは「部屋と食事は無料、稼ぎの4分の1が取り分だよ」「シスター、ここは娼館ではなく(一瞬口ごもって)『出会いの家』ですよ(この表現には毎回観客から笑いが起こっていました)」とMargridを誘惑します。東宝版では、バリバリに正義感を振りかざしていたMargridが、Madame Lapinに「自分を売るんじゃない、自分の体を売るんだ」と言われたくらいで、いとも簡単に売春婦になることに、どうしても納得できませんでしたが、貧しい生活から脱出したい、路上ではなく部屋に住める生活をしたいという動機で、Lapinの誘いに乗るというのは、話の流れからも感情的にもうなずける展開でした。
Marie Antoinette の詳細感想、ありがとうございます。残念ながら見に行けなかったので、ドイツ版との差、興味津々で読ませていただいています。
カリオストロの "Illusionen" は新曲だったんでしょうか? 日本版は2回見ましたがそれほど好きになれず、CDも買ってなかったので気付いてませんでした(^_^;A 歌詞がずいぶん違うな~ とは思ってましたけど。アントワネットの "Langweilen will ich nicht" の場所も分かってすっきりしました。
Blind von Licht と 百万のキャンドルの内容の違いには、ブレーメンのCDを買ったときからほぼ同感でした (ドイツ版の方が強くて好きです。「心の声」 は日本版が好みですけど)
お嬢様教育? を受けていたマルグリッドがどうしてあんなに貧乏なのかとか、あっさり売春に走りすぎだろ、という突っ込みどころもドイツ版では改善されていたんですね。
せりふや感情の自然さといい、やっぱり見てみたかったです (ルイ16世は私も石川さんが断然好みですけど) セットを売り払うということは、ツアーやウィーン公演もなさそうなんでしょうか?
引き続きご感想、楽しみにしています。東宝版でやたら目立っていた巨大な刃とか、セットがどうなっていたかぜひお聞きしたいです。
別項ですが、Susan の出演情報もありがとうございました♪
感想ありがとうございます。1幕は内容的に東宝版とかなり違うので、ついつい細かくなり、遅々として進んでおりません(^_^;)。気長におつきあいいただければ幸いです。
"Illusionen" は未見の帝劇凱旋公演から加わった曲なので、東宝初期バージョンに慣れていると、このメロディーが入るたびに違和感を感じてしまいます。曲はカッコイイので、単に慣れの問題ですが。
> Blind von Licht と 百万のキャンドルの内容の違いには、ブレーメンのCDを買ったときからほぼ同感でした (ドイツ版の方が強くて好きです。「心の声」 は日本版が好みですけど)
私もBlind von Lichtはドイツ語、「心の声」は日本語の方が好きです。タイトルも"Ich weine nicht mehr"(私はもう泣かない)より「心の声」の方が詩情がありますよね。
> セットを売り払うということは、ツアーやウィーン公演もなさそうなんでしょうか?
劇評は良かったものの、興行的には巨額の赤字を出して問題になっているので、当分ツアーはなさそうな気がします。ウィーン公演については、VBWのお偉いさんが見に来ていたという噂があるので、もしかするとRudolfの次にRaimundで上演されるかも(あくまで希望&憶測ですが)?
セットについてはまた書きますが、もしウィーンでやるのなら、コンセプトから作り直して貰いたいです。