2010年3月11~14日(6公演、東京・オーチャードホール)、18~21日(5公演、大阪・梅田芸術劇場メインホール)で行われたガラコンサート”Frank & Friends/Mitsuko”。3月20日と21日千秋楽の計3公演を観てきました。
第1部は”Mitsuko”のコンサートバージョン。曲目とキャストは次の通り。
M1 西と東(Von Herz zu Herz):ハインリッヒ
M2 Ich liebe dich(Die Sprache der Liebe):ハインリッヒ/光子
M3 勘当(Schande):喜八/ツネ/光子
M4 何故?(Warum?):光子
M4A 大和撫子:昭憲皇后
M5 東と西(Von Herz zu Herz)(M1リプライズ):BGM
M6 親戚の眼(Die Fremde – Aus der Sicht der Verwandten):コーラス
M7 勉強(Der und Die und Das – Deutsch-Lern-Song):ハインリッヒ/光子
M8 愛は国境を越えて(Liebe überwindet alle Grenzen):ハインリッヒ
M9 Ich liebe dich(Die Sprache der Liebe)(M2リプライズ):光子
M10 親戚の眼(Die Fremde – Aus der Sicht der Verwandten)(M6リプライズ):BGM
M11 勉強(Der und Die und Das – Deutsch-Lern-Song)(M7リプライズ):BGM
M12 Ich liebe dich(Die Sprache der Liebe)(M2リプライズ):リヒャルト/イダ
M13 勘当(Schande)(M3リプライズ):BGM
M14 何故?(Warum?)(M4リプライズ):リヒャルト
M15 孤独(Einsamkeit):光子
M16 パン・ヨーロッパ(Pan Europa):リヒャルト/コーラス
M16A パン・ヨーロッパ(マーチ風)(Pan Europa):BGM
M16B 孤独(Einsamkeit):BGM
M17 愛は国境を越えて(Liebe überwindet alle Grenzen)(M8リプライズ):ハインリッヒ/光子/リヒャルト/コーラス
光子(Mitsuko):安蘭けい
ハインリッヒ(Heinrich):Máté Kamaras
リヒャルト(Richard):Lukas Perman(20日)、田代万里生
ナレーション:増沢望
アンサンブル:佐山陽規、中西勝之、中山昇、家塚敦子、池谷京子、岡本茜
2005年12月9日にUwe Kröger、一路真輝、井上芳雄、Boris Eder(MOZART!初演版のSchikaneder役)により、Wien(ウィーン)のMuseumsquartierで行われた世界初演は、残念ながら観に行くことが出来ませんでしたが、その初演と同じコンサート版を日本で観ることが出来たことに、まずは感謝の気持ちで一杯です。待っていたファンにとっては4年以上の月日は長いものでしたが、今回の公演実現に向けて尽力されてきた関係者の皆さんにとっては、一つ一つ問題を解決していく内に、あっという間にこの日が来てしまったという感じかもしれませんね。
振り返ってみれば、Elisabethの宝塚上演から始まったウィーン・ミュージカル界との交流が、東宝でのElisabethやMOZART!上演につながり、DIVA2004でUwe Krögerを日本に迎え、ついには夢のまた夢だと思っていた、ウィーン版Elisabethの来日公演が実現したわけです。そこから更に日欧キャストによる数回のコンサートを経て、日本語・英語・ドイツ語の3カ国語での”Mitsuko”東京・大阪公演につながったことを思うと、歴史はこうして作られていくのだなあと感慨もひとしおです。パンフレットに載っていた、構成・演出の小池修一郎氏や井上君、一路さんの初演当時の思い出話も、一つの舞台にまつわる歴史的エピソードとして興味深く読みました。
作品自体については、リヒャルトを語り手とする構成が非常に良かったです。増沢さんの通りのいい声も素晴らしかったですし、物語を外から語り手として進行させる時と、ハインリッヒやリヒャルトの分身となって場面の内側にすっと入り、それぞれの役の台詞を担当した後、MátéやLukasの歌につなぐバランス感覚が絶妙でした。物語の流れも、ハインリッヒとミツコの出会いから結婚、帰国、ハインリッヒの死といった個人的なエピソードから、現在の欧州連合の礎となったリヒャルトの汎ヨーロッパ思想へとつながることで、”Mitsuko”というタイトルが示す一人の女性の人生の枠組みだけに留まらず、時を超えた広がりを感じさせてくれました。ミツコ自身は夫の早世や息子達の結婚問題、第一次大戦を敵国出身者として迎える等、決して幸せだったとは言えない生涯を送っていますが、彼女の人生を描いた舞台を、日欧米のスタッフが仲良く作り上げたことを知ったら、さぞ喜んだことでしょう。
Frank Wildhornの音楽が持つ、Wildhorn節とでも言うべき特徴は、一歩間違うとマンネリ化の危険性がありますが、”Mitsuko”の曲にはいい意味でのWildhornらしさが出ていたと思いました。”Rudolf”や”Der Graf von Monte Christo”の音楽は、最初に聴いたときに難しさがやや先立つ気がしましたが、”Mitsuko”は割と耳馴染みがいいように感じました。もっともミツコと両親が結婚を巡って争う「勘当」は、かなり難しいメロディーラインで、皆さん苦労されているようでしたが。梅田芸術劇場のサイトに舞台写真がアップされていますが、公演中に動画撮影も行われていたので、曲を忘れないうちに(笑)是非掲載して欲しいです。集客率アップとファンサービスのためにも、プロモーション映像はアーカイブ化して、ネット上でいつでもアクセス可能にして下さい!
安蘭さんのミツコは、例えば”Ich liebe dich”の高音にはちょっと弱さが感じられたものの、総じて安心して聴けました。まだ声的にも演技的にも女性を演じるのに慣れていないのかもしれませんが、これからが楽しみです。レトロな衣装もとても似合っていました。ドイツ語学習者なら誰でも一度は苦しむ男性・女性・中性名詞をテーマにした、ドイツ語学習の歌での演技は、ユーモラスでなかなか可愛らしかったです。「娘」の単数形Tochterと複数形Töchterの発音が同じに聞こえてしまった点は、次回までの宿題ですね。冠詞の例がカラフルに説明されていた字幕が秀逸でした。後半はややミツコの影が薄くなりましたが、コンサート版の限られた上演時間では、やむを得なかったのかなと思う次第。舞台版に期待します。
Mátéは最初やや疲れた声?と思ってしまいました。そのせいか、希望に溢れて日本にやってきたハインリッヒの気持ちが、明るいメロディーで現されている最初のナンバー「西と東」では、Mátéの歌を聴きつつも、ついUweバージョンを想像してしまいました。余談ですが、歌詞の中に「ジャンク船」が出てきた瞬間、「ラスト・サムライ」のインチキな横浜の風景が頭をよぎりました(苦笑)。それにしても更に進化していたMátéの日本語にはびっくりしました。「愛は国境を越えて」の日本語歌詞はイントネーションも殆ど完璧、またミツコにドイツ語を教える場面の日本語台詞も、なかなか自然に流れていました。トークを日本語でバリバリこなす日も間近ですね(笑)。
リヒャルトは、Lukasと万里生君で観ました。どちらも良かったですが、やはりLukasが力強いコーラスと共にドイツ語で歌い上げた「パン・ヨーロッパ」は、胸に迫るものがありました。初演時には、ショーストップになるほどの喝采を引き起こしたというこのナンバー、オーストリア人のLukasにとっては、自分自身の気持ちそのものだったことでしょう。是非歌った感想を聞いてみたいものです。万里生君もドイツ語頑張っていましたが、発音が全体的に柔らかめで、ちょっと分かりづらかったです。井上君バージョンも聞き比べしてみたかったです(なので是非動画アップして下さい!)。
今回参加された男女3名ずつのアンサンブルの方達、皆さんとても聞き応えがあり、素晴らしかったです。特に女性陣! 池谷京子さんの昭憲皇后、暖かい声と気品のある立ち姿が素敵でした。池谷さんのブログによると、この歌は元はBGMだったものに、今回新たに歌詞をつけたものだそうです。普段アンサンブルの方をソロで聴く機会があまりないので、出演された舞台は観ていても、本当の実力を知らないままでいることが多いのが残念です。こうした出演が、実力がある方達にとって大きな役につながるきっかけになるといいですね。
岡本茜さんが演じたリヒャルトの妻イダも、クリムトの絵を思わせる雰囲気で、舞台版でも是非彼女で観たい!と思いました。Lukasとデュエットしたドイツ語の”Ich liebe dich”もなかなかのもの。字幕の内容がドイツ語の歌詞と合っておらず、眼が白黒してしまいましたが、翌日万里生君バージョンの日本語歌詞だったと分かり、謎が解けました。他の曲には歌の内容を忠実に訳した字幕がついていましたが、このデュエットだけ妙にキラキラした歌詞になっていたのには、非常に違和感を感じました。”Elisabeth”といい”MOZART!”といい、日本の観客を意識した小池さんの歌詞はかなりの超訳で、本来の意味をはずれることが多いのが難点です。ハインリッヒやリヒャルトの歌を日本語化するのであれば、修飾過多で表面的な歌詞にならないようにお願いしたいです。
2011年春の”Mitsuko”舞台版上演が決まったそうですが、出来れば今度は日本からウィーンへ舞台版を持っていって欲しいです。ロングランは無理としても、Ronacherで”Spring Awakening”を上演したときのように、1~2ヶ月の期間限定なら何とかなるかなと思うのですが、如何でしょう? ミツコ役は是非日本人キャストに頑張って貰いたいので、安蘭さんにドイツ語を猛特訓してもらう(笑)、あるいはちょっとジャンルは違いますが、「キャンディード」への出演経験があるオペラ歌手の幸田浩子さんのように、歌もドイツ語もOKな方に担当して貰うのはどうでしょう? ドイツ語圏では最近娯楽指向の作品が多く上演される傾向があり、ミュージカルファンの間では真面目な内容の作品を見たいという声が目立ちます。恋愛に歴史、政治、ユダヤ人問題等、ウィーンミュージカル好みの要素が盛りだくさんの”Mitsuko”は、きっとそういうファンの気持ちを掴むと思います。2011年の舞台版初日には、是非Vereinigte Bühnen Wien(VBW、ウィーン劇場協会)のトップを招待して下さい!
参考までに、シアターフォーラムに掲載された2005年のウィーン初演当時のレポートをご紹介しておきます。
・ウィーンで蘇るクーデンホーフ光子の物語 ミュージカル・コンサート『MITSUKO』
・一日限りのミュージカル・コンサート『MITSUKO』ウィーンで開催
・Uwe、一路、井上 『MITSUKO』&ミュージカルハイライト ウィーンで開催
・『MITSUKO』&ミュージカルハイライト アフターパーティ
spa さん、こんにちは。Mitsuko、やはり見らたんですね♪
お勉強の歌、光子の歌の中では一番好きでした。文法に切れたくなるのはとっても同感ですし(笑) 2人とも表情が可愛くて。娘の発音の件は、単語の性が3つもあるその上に複数だと違うのは複雑すぎるという演出上の方針? とも思いました。ただ、娘たちの数が違ってたのは (写真で3人になっても zwei と言ってませんでした? 東京では合ってました) 課題かも(^_^;A
"キラキラした歌詞" 言い得て妙ですね。私は日本のリヒャルトたちを先に見ていたので、そういうパターンかと分かったのですが、実際に歌われてる言葉と字幕のあまりの落差に目眩が(笑) 日本版もアポロンとか出さずにもっと普通にできないのかなぁ、と思っちゃいました。小池詞、メロディーにはよく乗るのですが… ドイツ語版の歌詞、公開してほしくなりました。もちろん映像もですけど!
井上、田代リヒャルトのドイツ語も健闘でしたが、やっぱり Lukas の Paneuropa に一番感動。歌った感想、私も聞いてみたいです!!
3ヶ国語上演が嬉しい驚きで、リヒャルトの語りの枠組みを含め、舞台化でどうなるのかが気になります。
yukitsuriさん、今晩は。
私は逆に数が合わなかった方が演出で、娘の発音は区別がつけられなかったのかなと思いました。
アポロンはびっくりしましたよね! 日本語とドイツ語の言葉の順序の違いで、後で何処かにアポロンが出てくるのかと思ったりもしましたが、全く影も形もなかったですね。ドイツ語版の歌詞、聴いているときは分かっても、後から思い出すのは難しいので、私も知りたいです。途中でメモを取るわけにもいかないですし(笑)。
コンサート版の構成がとても良かったので、逆に舞台版が失速しないかがちょっと心配です。3カ国語上演も出来れば再現してもらいたいですが、どうでしょうね。語り手と歌のリヒャルトを分けないなら、海外キャスト起用は難しいかもしれませんが、ハインリッヒだけなら何とかなるかもと思ったり。いずれにせよ、舞台版を見るのが今から楽しみです。