3 Musketiere観劇記 Part 2(2010年7月)

ドイツのミュージカル雑誌musicals(August/September 2010、Heft 144)に、「Tecklenburg版”3 Musketiere”はBerlin(ベルリン)やStuttgart(シュトゥットガルト)のオリジナル版演出を、あらゆる点で凌駕した」と絶賛する記事と、監督兼Athos役のMarc Clearのインタビューが掲載されていました。「チケットが取れたから来週また行くわ」と気軽に出かけられるドイツの友人が羨ましい! Berlin版のCDをリピートしつつ、思い出を反芻する毎日です。

監督によると、Tecklenburg版では以前のバージョンからショー的な部分を取り去り、音楽付きの舞台映画のような形を目指したそうです。音楽が現代的なポップスの場合に起こりがちなパロディーや物語の進行に関係のない余計な飾りをそぎ落とし、観客がよりリアルに物語に入り込めるよう、16世紀に実際した猥雑なパリを再現したいというMarc Clearの意図は、舞台の隅々に感じられました。

ここからはBerlin版CDの曲目を元に、Tecklenburg版の内容をざっと紹介していきます。Freilichtbühne Tecklenburgの公式サイトの舞台写真と併せてご覧下さい。三銃士のストーリーをご存じない方にはネタバレになる部分もあるので、帝劇版観劇まで楽しみはとっておきたい方は、2011年夏以降に再訪下さいませ(まだまだ先の話ですが)。

1. Ouvertüre/ Prolog 1. Akt(序曲、1幕プロローグ)

舞台前面中央に、二本の剣がXの形に交差して飾られています。そこに鍛冶職人らしい老人(恐らくTecklenburgの市民エキストラ)が、剣を磨きつつ登場。先の二本の剣の中央に、その第3の剣を上から差し込んだときに、CDの冒頭にもあったシャキーンという音が鳴り響きます。老人が剣立てごと奥に戻っていくと、序曲が始まります。

大勢のパリ市民達と共に、車輪のついた移動式舞台が勢いよく走り込んできます。舞台上の不気味なメイクを施したConférencier(諷刺劇の司会者、Stefan Poslovski)が、カトリック国であるフランスにおけるユグノー教徒(プロテスタントの一派)の台頭を押さえ込もうとするKardinal Richelieu(リシュリュー枢機卿、Yngve Gasoy-Romdal)の動きや、フランス国王König Ludwig XIII.(ルイ13世、Lars Kemter)と王妃のKönigin Anna(アンヌ王妃、Wietske van Tongeren)の間に未だに子供が出来ないこと、更に国王はRichelieuに頭が上がらず、枢機卿に逆らえる者は誰もいないと歌い上げます。諷刺劇に受ける民衆。そこでConférencierのトーンが変わります。「しかしそこに枢機卿に立ち向かい、悪に打ち勝つ者が現れた。彼の物語を聞かせよう」。

市民達はTecklenburg在住のエキストラらしく、子供から大人まで、老若男女取り混ぜてかなりの人数が登場。通常の舞台の群衆シーンよりもリアル感がありました。開演前に「フラッシュを焚いての撮影は禁止です」というアナウンスがあり、「フラッシュなしならOKなの?」と思いましたが、出演している家族を撮りたい市民への配慮なのかもしれません。

2. Heut ist der Tag(今日こそその日)

盛り場でテーブルを囲む若者達。その中に我らが主人公、D’Artagnan(ダルタニャン、Thomas Hohler)がいます。「今日から全てが始まる、僕は銃士になるんだ! どんな危険が襲ってきても僕は逃げないぞ!」と最初からテンションの高いD’Artagnan。英雄となり、名誉や権力、富が手に入る人生がやってくる、あるいは敵に恐れられ、民衆からは讃えられ、詩人に詠まれ、伝説になると妄想はどんどんエスカレート。果てはテーブルの上に立ち上がり、D’Artagnan、D’Artagnanと自分の名前を連呼する始末(笑)。その妙な自信はどこから来るの?と思わず突っ込みたくなるキャラクターです。

銃士隊への入隊志願者としてパリに行くD’Artagnanに、母親が清潔な下着と食料、お金、そしてどんな傷にでも効くという軟膏を渡します。元銃士で現在は病気で療養中の父親から、旧知の仲である銃士隊隊長Treville宛の推薦状を渡されます。更に両親からの贈り物があるので目をつぶってと言われ、期待に満ちて目を閉じるD’Artagnanの背後にパッカパッカと現れたのは、ピンクのリボンをつけた本物の馬! 勿論観客一同大爆笑!! 誇らしげに「うちの厩舎で一番いい馬を贈るわ!」と宣言する母親の言葉に大喜びするD’Artagnanでしたが、「ん? うちには一頭しか馬はいないよ」と気づいた彼の目に飛び込んできたのは、その一頭しかいない馬、Pomme de Terre(フランス語でジャガイモ!)でした(苦笑)。

最後に父親から剣を贈られ、初めての自分自身の武器を手にしたD’Artagnanは、意気揚々とPomme de Terreにまたがり、パリに向かいます。

3. Milady ist zurück(帰ってきたミレディ)

ミステリアスな音楽と共に、舞台奥の両開きの扉から登場する謎の女。胸一杯に空気を吸い込み、陶然とした表情を浮かべます。「さようなら英国、ボンジュール、フランス! 私はここに再び戻ってきたわ。長年にわたる放浪の旅は、私に新しい力を与えてくれた。罪人として追放されていた時は終わったのよ!」。不死鳥のごとく蘇った女、Milady de Winter(Femke Soetenga)は、「もう決して屈従させられはしない!」と誓い、”Nein, nie mehr, nie mehr, nie mehr!!”(いいえ、決して、決して、決してしない!)とそれはそれは粘っこく、ドスの効いた力強い声で歌い上げます。

破門され、烙印を押され、祖国を追われたMilady。復讐に燃えてフランスに戻ってきた彼女の胸には、もう一つ秘めた思いがありました。突然囁くような、夢見るようなトーンに変わった彼女の口から、「それに彼はまだここにいる。今度こそ私達、幸せになれることを願っているの。彼の傍に再び戻れるよう、全ての力を注ぐわ。彼の前で身の潔白を証明すれば、もう二度と人生を浪費することはないわ!」と、過去の恋が語られます。歌の最後は、二度と黙りはしないと再起を高らかに宣言するMiladyの暗い歓喜で締められます。これぞ悪女、Milady様!といった雰囲気に、観客大喝采!!

そこへ枢機卿の部下である独眼の剣士Rochefort(Paul Stampehl)が登場します。Miladyから英国宰相Herzog von Buckingham(バッキンガム公、Harald Tauber)の情報を聞き出そうとするRochefort。まずは一休みしたいわと軽く彼をあしらうMiladyの腕をRochefortが掴んだところに、突然D’Artagnanが割り込みます。ご婦人の危機!と騎士道精神を発揮したつもりのD’Artagnanでしたが、変な青年の乱入の隙に、Miladyはさっさと退散。Rochefortにユグノー教徒呼ばわりされたものの、田舎者のD’Artagnanはユグノー教徒が何のことかも分からなかったらしく、「僕はユ、ユグノー教徒とやらじゃない、銃士になりにパリに来たんだ!」と誇らしげに言い、銃士隊隊長Treville宛の推薦状をRochefortに渡します。しかしRochefortが属する枢機卿護衛隊と銃士隊は犬猿の仲。推薦状はRochefortの部下達に馬鹿にされながら読み上げられ、最後はRochefortにくしゃくしゃに丸められ、打ち捨てられてしまいます。怒り心頭のD’Artagnan、剣を抜いてRochefort達に挑もうとしますが、逆にあっという間にがつんとやられる始末。伸びてしまったところをRochefortの部下達がPomme de Terreの背に荷物のように乗せ、敢えなく退場となってしまいます。

再び姿を現したMiladyから英国情勢を聞いたRochefortは、パリの枢機卿に報告しに戻ると言いますが、パリ行きが楽しみだというMiladyには、この地に留まって次の指令を待てと冷たく言い放ちます。

4. Paris(パリ)

舞台に大勢のパリ市民達が行き交います。その中にAthos(Marc Clear)、Porthos(Enrico de Pieri)、Aramis(Jens Janke)の三銃士の姿も見えます。猥雑だけれど魅力的なパリの姿を、それぞれの言葉で表現する三人。「太陽は、白髪の老人にも子供達にも、物乞いにも商人にも、聖者の上にも罪人にも、魂を安らがせる者にも不吉な知らせを告げる者にも、愛や苦しみの上にも等しく昇る」。混沌としたパリの街をきょろきょろしながら歩いていたD’Artagnanは、若い金髪女性とぶつかってしまいます。路上に散らばった彼女の荷物の中身を慌てて拾おうとしたD’Artagnanは、彼女の美しさにぽうっとなってしまいます。思わず「パリの女の子は、皆あなたみたいに綺麗なんですか?」と尋ねるD’Artagnan。女性のお供が「マドモワゼル、宮殿に急がないと」と急かすのを聞いて、「あなたはお姫様なんですか?」と更に尋ねる彼の様子を面白がる女性(Constance、Lisa Antoni)は、これからD’Artagnanの物語に深く関わってくることになるのですが、今の彼には知るよしもありません。

ところでこの出会いの場面、CDのブックレットで台詞を確認しようとしたら、全然違う内容でした。CDでは馬を連れたD’ArtagnanにConstanceが「素敵な馬ね。名前は?」と聞き、彼女と話をしている間に泥棒に馬を盗まれ、慌てて追いかけるという筋立てになっていました。監督インタビューに、物語の大枠に差し支えない程度に台詞や流れを変更したと載っていたので、他にも違う点が色々ありそうです。

素敵な出会いに有頂天になっていたD’Artagnanは、うっかり通行人の男性(Athos、Marc Clear)にぶつかってしまいます。「目を大きく開けて良く見ろ!」と怒る男性に、「急いでいたから」と謝ったものの、D’Artagnanに年寄り扱いされた男性は侮辱されたと激怒し、決闘を申し渡します。受けて立とうとしたD’Artagnanですが、丁度二人の後ろを枢機卿護衛隊の隊員が通りかかります。男性は声をひそめて「ここじゃない、決闘は禁止されている。明朝6時、Luxembourgのカルメル会修道院の裏で」とD’Artagnanに告げます。立ち去る男性の後ろ姿に、「えーと、どうやって行ったらいいんですか?」と声をかけるD’Artagnan。

人混みの中をうろうろするD’Artagnan、またしても通行人にぶつかってしまいます。まさに口に運ぼうとしていたパンを取り落としてしまった恰幅のいい男性(Porthos、Enrico de Pieri)に、「お前の頭には目がついているのか!」と怒鳴られたD’Artagnan。謝りつつも、男性の横幅が広かったのでぶつかってしまったと暗にほのめかす言い方だったばかりに、またしても相手の怒りを買い、決闘を申し込まれてしまいます。「6時にLuxembourgのカルメル会修道院の裏で」と言う相手に、「6時にはもう予定が入っているので、1時間後に」と7時の約束を取り付けます。ちなみに落としたパンは、しっかり拾って食べていたPorthosでした。

D’Artagnanの前を歩いていた女性が、すっとハンカチを落とします。すかさず拾い上げ、「お嬢さん!」と声をかけるD’Artagnan。その後ろで「なんてこった!」と顔をしかめる男性(Aramis、Jens Janke)。女性の方も何故か不機嫌な顔でD’Artagnanの手からハンカチをひったくり、ふんっとばかりに立ち去ってしまいます。状況が飲み込めないD’Artagnan。「あれは私が拾うはずだったのだ」と言う男性を、「何だって? 大の男がレースのハンカチに何の用があるんだい?」と笑い飛ばしてしまい、またもや決闘の約束をするはめに。さすがに三度目ともなると慣れたもので、相手の台詞を先回りし、8時にLuxembourgのカルメル会修道院の裏で会う約束を取り付けます。決闘の証に叩き付けられた手袋を、「忘れ物!」と追いかけて男性に渡したD’Artagnanは、「この町に着いてたった2時間で3人も友達が出来た!」と最後まで天然っぷりを発揮しまくってくれました(笑)。

Part 3に続きます。

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5 Comments

  1. はじめまして。
    ミュージカルが好きで最近読ませていただいていたのですが、質問がありまして初めてコメントさせていただきました。
    本当はメールのほうが適切な内容かもしれないのですが、アドレスが見当たりませんのでしたのでコメントで失礼します。

    今ドイツに来ていて、なんとかしてドイツでミュージカルを観たいと考えているのですが、そのような情報を収集するのに便利なサイトなどありましたら教えていただけませんか?

    もしブログ内にその内容の記事がすでにあるのであれば、そのページを教えていただくので結構です。

    突然で申し訳ありませんが、よろしくお願いします!

  2. Mさん、初めまして。ご訪問ありがとうございます。

    ドイツのミュージカル情報を入手するなら、musicalzentraleがお薦めです。日程や地域から、上演演目が分かります。

    http://www.musicalzentrale.de/

    今の季節なら、野外劇場もお薦めです。但し防寒対策が必要ですが。是非楽しんできて下さい!

  3. Spaさま
    詳細なレポありがとうございます!
    CDでいまひとつ(本当にひとつ?)つかめなかったイメージがおかげ様で具体的に浮かんできます♪
    原作を斜め読みしていたのもあり、特に”Milady ist zurück”は成程~と納得いたしました。D'ArtagnanとConstanceの出会いはこちらの方がロマンティックな感じがします。嗚呼・・観たいです!ドイツの人がうらやましいぃ。
    Part3も楽しみにしていますね。

    追伸>上記コメントの「野外劇場は防寒対策が必要」。
    本当にそのとおりで!日本の夏気分のままで行き、気温差を身体で覚えてきたのも今となっては良い想い出です(笑)

  4. りでさん、こんにちは。

    三銃士レポート、お楽しみ頂けているようで良かったです。やはり百聞は一見にしかずで、実際の舞台を見ると印象が違いました。CDにはなかったつなぎの部分や歌のおかげで、観劇中は流れがスムーズに把握出来ましたが、レポートを書くとなるとブックレットに歌詞が載っていない部分がネックになって、なかなか進みません(苦笑)。記憶違いや聞き間違いがあることを前提にご覧下さいませ。

    野外劇場に行ってこられたのですね。私も初めての時は対策が甘く、しかもその日は特別に寒かったので、ガタガタ震えながら観劇した思い出があります。今はフリースとカーディガン、膝掛けは必需品。更に場所によっては座布団やレインコート、荷物を入れるための大型ゴミ袋、折り畳み傘を用意することをお薦めします。座布団はホテルのテラスに置いてある椅子から借りられないか、聞いてみるといいですよ。背中用にもあるとなお良しです。結構準備が大変ですが、野外観劇の気持ちよさは一度味わうと病みつきになります!

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