ドイツ・Hamburg(ハンブルク)で2007年に初演され、現在Wien(ウィーン)及びStuttgart(シュトゥットガルト)で上演中の”Ich war noch niemals in New York”。オーストリア出身の歌手・作曲家Udo Jürgens(ウド・ユルゲンス)のヒット曲で綴るこのミュージカルコメディーが、『ニューヨークに行きたい!!』のタイトルで日本上陸を果たしました。2010年4月にWienのRaimund Theaterで見た時は(観劇記はこちら)、まさか日本で上演されるとは思っていなかったので驚きました。日本では知られていないUdo Jürgensの曲が受け入れられるだろうかと思いつつ、大阪公演に足を運んできました。
主人公のテレビキャスター、リサ・ヴァルトベルク役の瀬奈じゅんさん、彼女の母親マリアが駆け落ちするオットーの息子で、写真家のアクセル・スタウダッハ役の橋本さとしさんは、『三銃士』でアトスとミレディーを演じたばかりとあって、息がぴったり。威勢良くパワフルで猪突猛進なキャリアウーマン、でも実は臆病で愛に不器用なリサは、瀬奈さん御本人がそうなのかと錯覚するくらいのはまり役! 仕事場でのスーツ姿、船上での肩を出したリゾートなパンツスタイル、紫を基調にした胸元で切り替えのある半袖のワンピースと同色のタイツ等、ファッションも素敵でした。クライマックスの「赤いスリムなドレス」はウエストがふわっとしているデザインでしたが、もっとタイトなシルエットで見たかったです。橋本さんのアクセルもこれまた愛すべきキャラクター。しっかりものの息子フロリアンの前で見せる、ちょっとドジで子供っぽい様子が可愛らしかったです。”Siebzehn Jahr, blondes Haar”(17歳のブロンド娘)の伸びやかな高音、アンサンブルと繰り広げる軽やかでコミカルな”Bleib’ doch bis zum Frühstück”(朝食まではそばにいて)、”Immer wieder geht die Sonne auf”(太陽は昇る)や”Gib mir deine Angst”(君を守りたい)での瀬奈リサとの情感豊かなデュエット等、橋本さんの魅力を思う存分堪能出来る場面が満載で、すっかりファンになってしまいました!
ファンになったと言えば、リサのスタイリスト兼親友のフレッドを演じた泉見洋平さん、『ダンス・オブ・ヴァンパイア』ではゲイの吸血鬼に襲われるアルフレートでしたが、今回は堂々たる(?)ゲイっぷり。ちょっと女の子っぽいなよっとした仕草とキラキラした目がとてもキュートで、あまりの可愛さにこれまた目が離せませんでした(笑)。冒頭のナンバー”Alles, was gut tut”(なんでもやれ)で心を掴まれ、ギリシャ人の恋人コスタに、二人が住むアパートの住人から退居を要求する手紙を突きつけられたことを告白する”Ein ehrenwertes Haus”(ご立派な家)、哀愁漂う旋律が印象的で個人的にとても好きなナンバーの”Griechischer Wein”(ギリシャのワイン)で、泉見さんのコミカルなところからしっとりした表情まで堪能させて頂きました。くせのある黒髪と濃い髭が如何にもギリシャ人的なコスタ役の戸井勝海さんとのキスシーンには、どきどきさせられました(笑)。泉見さんが東京公演中に怪我されていたことは後で知りました。「ここはフレッドも一緒に踊ればいいのに」と思ったところがありましたが、演出が変更になったのかもしれません。オフは温泉で怪我を癒されたでしょうか。
手のかかる父親を持っているからか、妙に大人びた12歳の少年フロリアンは、吉井一肇君と石川新太君のダブルキャスト。Wien版の子役君も上手くてびっくりしましたが、この二人も半端なく凄かったです! 決め台詞の「クールだぜ!」は二人にこそ言ってあげたいくらい(笑)。フロリアンは台詞も多くソロもあり、ダンスもこなさないといけない役ですが、二人とも全く物怖じすることなく大人キャストの間で存在感を放っていました。今からこれだけ出来るとは、これからの成長が楽しみです。こうした才能ある子供達が活躍できる作品をもっと大勢の人に観て貰うためには、子役の出演可能時間を午後9時よりも遅くすることが不可欠だと思います。海外では午後10時を過ぎる公演でも子役は最後まで出演しています。健康等への配慮は勿論必要ですが、演劇文化のためにも是非出演時間延長を実現して下さい!
オットー役の村井国夫さん、よく響く深い声が耳に心地良かったです。浅丘ルリ子さん演じるマリアに押され気味な、人はいいけれどちょっと頼りないおじいちゃんぶりが可愛いらしく、孫のフロリアンに迷子扱いされたり、自分がいなくても大丈夫か心配される辺りは息子のアクセルそっくりでした。浅丘さんのマリアはとってもチャーミング。ピンクやラベンダー色のフリルや花がモチーフの衣装がお似合いで、独特の存在感がありました。台所から誕生日ケーキを盗んでくる大胆不敵さ、娘のリサと間違われて案内されたスイートルームでも、おどおどするオットーを尻目にシャンパンを楽しむ余裕が格好いい! 歌声は音程は確かなものの、影コーラスでボリュームアップされていたほど小さくて聴き取りづらかったですが、対照的に台詞の明瞭さ、力強さは誰にも負けていませんでした。幾つになっても素敵な女性のお手本とも言うべき魅力溢れる浅丘さん、ミュージカルは初出演だったそうですが、ぴったりのキャスティングでした。
マリアの迫真の演技に押されてスイートルームを提供してしまう船長の阿部裕さん、一人漫才のような主任客室係の武岡淳一さん、それぞれコミカルにいい味を出していました。こんな船員さん達に囲まれていたら、船酔いになる暇はないでしょう!
この作品の大きな魅力はダンサブルな数々のナンバー。さすがUdo Jürgensのヒット曲だけあって、一つ一つの楽曲に力があり、タイトルにもなっている”Ich war noch niemals in New York”(ニューヨークに行きたい)を始め、耳に残るメロディーが満載です。KAZUMI-BOY、大澄賢也、田井中智子の三氏による見た目にゴージャス、演じる方にとっては恐らく過酷な振付をこなしたアンサンブルの皆さんがいなければ、この作品の楽しさは半減したことでしょう。一曲ずつ一つのショーとして見応えのある作りになっていて、1幕最後の”Schöne Grüße aus der Hölle”(地獄からのメッセージ)やフィナーレは、一緒に歌って踊りたいくらい気持ちが盛り上がりました!
歌詞は残念ながらパンフレットに載っていなかったので、原曲のドイツ語との違いは詳細には分かりませんでしたが、日本語の歌として聞きやすいようにかなりアレンジされているように思いました。耳に残った”Ich war noch niemals in New York”(ニューヨークに行きたい)のサビの部分、「行ってみたいニューヨーク、行ってみたいハワイ、二人サンフランシスコ歩きたい」は、原詩では「ニューヨークに行ったことがない、ハワイに行ったことがない、破れたジーンズでサンフランシスコを歩いたことがない」となっていました。”Aber bitte mit Sahne”(だけどお願い、クリームを添えてね)が「何よりもケーキ」と意訳されていたのもなかなか秀逸でした。
半ば出演者と化していた指揮の塩田明弘さん、指揮棒を振りながらジャンプする姿は、1階後方席からもよく見えました(笑)。2幕の冒頭、フロリアンが指揮棒を持って舞台に登場し、塩田さんの代わりに指揮をする演出が楽しかったです。
『ニューヨークに行きたい!!』、いい意味で予想を裏切る舞台でした! 正直客入りは芳しくなく、リピチケも大幅値下げされていましたが、おかげで翌日も行ってしまう羽目になりました(笑)。新作はなかなか集客できないものですが、食わず嫌いで見逃したとしたら本当に勿体ないことをしましたよ! 橋本さとしさんもトークショーで仰っていましたが、是非再演してもらいたい作品です。とにかく楽しく、そしてちょっとほろりとさせられる、そんな温かい雰囲気をまた味わいたいと思いました。
ところで日本での『ニューヨークに行きたい!!』上演に先立ち、Udo Jürgens自身も2011年10月1日から15日まで地中海クルーズのゲストとして船上生活を楽しんでいたようです。このクルーズにはYngve Gasoy-Romdal(”MOZART!”初演版Wolfgang)、Leah Delos Santos(”Die Schöne und das Biest”ドイツ初演版Belle)、Anne Welte(”Tanz der Vampire”初演版Rebecca)も乗船し、船内の劇場でミュージカルコンサートに出演していたそうです。こんな船旅なら是非体験してみたいものです!
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