2017年最初の記事は2016年最後の観劇についてお送りします。2014年の”Elisabeth”(エリザベート)に続くウィーンミュージカル in 中国・上海公演第2弾”MOZART!”(モーツァルト!)を、前回と同じ上海文化広場(上海文化广场、Shanghai Culture Square)で観劇しました。
“MOZART!”上海公演は2015年のWien(ウィーン)再演版の舞台をそのまま再現したことを売りにしています。Wienの初日と千秋楽を現地観劇しており、ライブ盤2枚組CDに加えてDVD及びBlu-rayも発売されたので、当初は上海遠征は考えていなかったのですが、主役WolfgangのOedo Kuipers以外のキャストがほぼ一新されたことに加え、2016年11月にPeachが関空~上海線を開設し、週末を利用しての弾丸マチソワ観劇旅行が可能になったため、上海行きを決行することにしました。
MOZART!
2016年12月17日(土)14:00
Wolfgang Mozart: Thomas Hohler
Amadé: Lucas MacGregor
Leopold Mozart: Marc Clear
Colloredo: Maximilian Mann
Constanze Weber/Nissen: Anna Hofbauer
Baronin von Waldstätten: Ann Christin Elverum
Nannerl Mozart: Amélie Dobler
Cäcilia Weber: Susanna Panzner
Karl Joseph Graf Arco: Guido Gottenbos
Emanuel Schikaneder: Sebastian Smulders
Aloysia Weber: Evita Komp
Josepha Weber: Alixa Kalasz
Sophie Weber: Céline Vogt
Fridolin Weber/Johann Thorwart: Florian Resetarits
Ensamble Female
Dorothea Baumann, Melanie Gebhard, Ruth Hausensteiner, Sybille Lambrich, Jessica Kessler, Anne-Marijn Smulders, Lena Weiss, Nina Würzl
Ensemble Male
Johan Berg, Fabian Böhle, Daniel Eckert, Nicolas Huart, Florian Sebastian Fitz, Kristian Lucas, Vasilios Manis, Michael Schüler
Swings
Jan Altenbockum, Ulrike Hallas, Maren Kern, Raphaela Pekovsek, Carl van Wegberg
MOZART!
2016年12月17日(土)19:15
Wolfgang Mozart: Oedo Kuipers
Amadé: Ilia Hollweg
Leopold Mozart: Marc Clear
Colloredo: Maximilian Mann
Constanze Weber/Nissen: Anna Hofbauer
Baronin von Waldstätten: Ann Christin Elverum
Nannerl Mozart: Amélie Dobler
Cäcilia Weber: Susanna Panzner
Karl Joseph Graf Arco: Guido Gottenbos
Emanuel Schikaneder: Thomas Hohler
Aloysia Weber: Evita Komp
Josepha Weber: Alixa Kalasz
Sophie Weber: Céline Vogt
Fridolin Weber/Johann Thorwart: Florian Resetarits
Ensamble Female
Dorothea Baumann, Melanie Gebhard, Ruth Hausensteiner, Sybille Lambrich, Jessica Kessler, Anne-Marijn Smulders, Lena Weiss, Nina Würzl
Ensemble Male
Johan Berg, Fabian Böhle, Daniel Eckert, Nicolas Huart, Florian Sebastian Fitz, Vasilios Manis, Michael Schüler, Sebastian Smulders
Swings
Jan Altenbockum, Ulrike Hallas, Maren Kern, Kristian Lucas, Raphaela Pekovsek, Carl van Wegberg
指揮は昼夜共Christoph Bönecker氏でした。
マチネはセカンドのThomas Hohler、ソワレはファーストのOedo KuipersがWolfgangでした。Thomas HohlerはSchikanederのファーストキャストとして参加しています。
上海公演に先立ち、ツアーキャストが稽古を行っていたドイツ・Duisburg(デュイスブルク)で2016年10月21日から23日にかけて行われた計5公演のうち、マチネ2回に出演したThomasのWolfgangが大変評判良く、是非観たいと思っていたので、開演前にキャスト表を見そびれた昼公演にWolfgangの白い衣装でThomasが登場した時は、心の中で小躍りしました!
Thomas Hohlerはドイツ・Tecklenburg(テクレンブルク)の夏の野外劇場公演によく出演しており、これまでも”3 Musketiere”(三銃士)のD’Artagnan(ダルタニアン)の他、”Sunset Boulevard”、”Artus”で観ており、良い役者さんだとは思っていました。また”Elisabeth”のドイツ及び上海公演でもRudolf役を演じており、こちらでも馴染みがありました。ですが今回のWolfgang役では、これまでの役では見えていなかった彼の魅力に大いに唸らされました! 感情豊かで情熱溢れる演技と厚みと安定感のある歌声で描き出したThomasのWolfgangは、ともすれば無機的で冷たい雰囲気の再演版演出に温かい血を通わせ、まるで違う作品を観ているかのような熱い興奮をもたらしてくれました! Thomasの動作は感情の裏付けがきちんとあって、演出で決められた通りの動きをしている感がなく、自然な流れがありました。”Ich bin Musik”(僕こそ音楽)でのひらっと舞い上がる姿の自然なこと! 赤いギターを鳴らす手付きもちゃんと弦を爪弾いていましたし、ピアノの上に腹這いになって演奏するところも物理的に不可能な逆手にはなっておらず、安心して見ていられました。Amadéに首を絞められる所も抵抗感満載。初演版から人物描写やエピソードが大幅に変わった脚本や詩的な韻の代わりに説明的な要素が増えた歌詞、初演では殆ど使っていなかったことを売りにしていたモーツァルトの音楽を既存の楽曲を削ってまで取り入れたWien再演版には、個人的には非常にがっかりしたのですが、残念に思われた数々の変更が気にならないほどThomasの渾身の演技には引き込まれました! 夜公演終了後の楽屋口で、北京から来た二人組の女性ファンが翌日昼公演のThomasのWolfgangを見るために急遽復路のフライトを変更したと言ってました。私も出来ることならそうしたかったです! 夜公演で演じた本役のSchikanederも若々しく軽快な動きで楽しく見せてくれました。ふと思い出しましたが、Wien初演版で準ファーストキャスト扱いのAlternierendのWolfgangだったRob Pelzerも、一時期Schikanederを演じたことがありました。
Duisburg公演が行われたTheater am Marientorで、20年前に”Les Misérables”のGavroche(ガブローシュ)役で初舞台を踏んだThomasは、まだ31歳の若さでありながら芸歴も長く、ドイツ語圏ミュージカル界のスター達とも数多く共演しているベテランなのです。年齢的にも丁度Wien初演版でYngve Gasoy-RomdalがWolfgangを演じていた時とまさに同じ頃合いで、タイプは違いますが初演当時のYngveの熱い演技が頭をよぎりました。そのYngveと”3 Musketiere”で共演しているThomas、先輩Wolfgangの姿から何かを教わったのかなと思ったりもしました。
男爵夫人のAnn Christin Elverum、上品で暖かく母性的で、Wolfgangを見つめる視線に愛がありました。ヴァイオリンの名器が奏でるような暖かく艶のある歌声は、私が聴きたかった男爵夫人! 天上から降臨して美声で歌い上げ、また別の世界に帰って行く女神のようなAna Milva Gomesの男爵夫人とは違う、人間味のある演技でした。Ana Milva Gomes以外に着こなせるのだろうかと思われた青いドレスもバランスの良い優美なプロポーションに似合っており、凜とした立ち姿が素敵でした。”Hier in Wien”(ここはウィーン)の背中を刺す仕草がキュート。
Thomas Borchertが”Evita”出演のために途中で抜けた後、Leopoldの再演版ファーストキャストに呼ばれたMarc Clearは、Thomas Hohlerと共にTecklenburgの”3 Musketiere”(三銃士)にAthos役で出演していました。また同じくTecklenburgで上演された”Marie Antoinette”(マリー・アントワネット)ではHerzog von Orléans(オルレアン公)としてSabrina Weckerlin(Margrid Arnaud、マルグリット)やYngve Gasoy-Romdal(Cagliostro、カリオストロ)、Patrick Stanke(Graf Axel von Fersen、フェルセン)といった豪華メンバーと同じ舞台に立っていました。千秋楽を含めたWien公演の最後の数日間に出演していなかったMarc Clearを見ることも、上海行きの目的の一つでした。結論から言うとやや期待先行で、想像していたよりも平板に感じましたが、対Thomas Borchert比だったかもしれません。同じ台詞を話していても、Thomasパパほどお金にこだわってる気はしませんでした。渋めでやや地味な分、Wolfgangを食わなくて良かったかもしれません。
“Elisabeth”上海公演で皇帝Franz Josephを演じたMaximilian MannのColloredoは黒ヒゲ悪人面で、普段のMaxとは別人のよう。声質が全体的に高く、やや軽く聞こえました。役柄的にはもう少し腹に落ちる声の方が私の好みでした。隠しきれない人柄の良さも、悪役に徹するにはちょっと邪魔していたかもしれません。Thomas Hohlerとのラスト近くの対決ソング”Der einfache Weg”(易しい道)は凄い迫力! 背筋がぞくぞくする鳥肌物の時間でした!! 大変格好良かったのでまた聴きたいです! Maxの黒い僧服と黒ブーツ姿がこれまた非常に格好良かったことも申し添えておきます。格好良いと言えば、Graf ArcoのGuido Gottenbosはこの役史上最高に若くて背が高くイケメンのArco。無駄に格好良いArcoとColloredoのツーショットは目の保養でした。
初めましての金髪のConstanze役Anna Hofbauerは背が高い上にヒールなので、やや低めのThomas Hohlerとの身長バランスはなかなかに危ういものがありました。逆にすらっと背の高いOedoとは丁度良いバランスでした。Constanzeとしてはエキセントリックさがなく薄味でしたが、歌声は可愛らしくて良い感じ。Constanzeが椅子の上でよろける動作がなくなっていたのは、背が高くて危ないからでしょうか。”Irgendwo wird immer getanzt”(ダンスはやめられない)の中で、椅子からずり落ちそうな体勢で長い両足を投げ出しているポーズが印象的でした。Anna Hofbauerは独身女性が理想の相手を見つけるというテレビのリアリティ番組”Die Bachelorette”に出演し、実際にカップルが成立したことで、一般のドイツ人に認知度が高い女優さんだそうです。
Nannerl役のAmélie Doblerは、ただでさえ役柄が大幅に縮小されたNannerlが、焦茶色の髪になって地味さに拍車がかかり、冴えない衣装も相まって存在感が非常に薄かったです。良く聴けば綺麗な声ですが、注意していないとうっかり聞き逃してしまいそう。偉大な神童の陰に埋もれた薄幸の姉という位置づけには合ったキャスティングでした。
Cäcilia WeberのSusanna Panznerはとても良い声で演技も上手かったです。惜しむらくは細身なので、キャミソール姿になるとボリューム感がなく、肝っ玉母さんの押せ押せなあくどさが薄れてしまいました。ConstanzeのAnnaより小柄なことも、迫力が物足りない一因だったかもしれません。
ファーストWolfgangのOedo Kuipers、Wienで観たときよりもこなれてきた感はありましたが、以前から気になっていた演技の雑さがThomas Hohlerと比較するとより目についてしまいました。歌も私が聴いた回はもう一つだった気がしました。ドイツ語ネイティブのThomasと比べるのは酷ですが、オランダ人のOedoのドイツ語の発音はキレが悪くて曖昧なのも気になりました。金髪で背が高く白が似合う彼は、クールな新演出にはビジュアル的には合っていますが、私が求めるWolfgang像はOedoとは違うなと改めて思いました。
Mark SeibertやThomas Borchert、Ana Milva Gomesといったスター選手が揃っていたWien公演と比べると、全体的にはやや地味目なキャスティングの上海公演でしたが、チームとしてのまとまりは決して引けを取っていなかったです。出番毎にワンマンショーになりがちなWienチームよりも、登場人物同士の気持ちの交流は上海チームの方が感じられました。特にThomas Hohlerの主役回はWolfgangが大変魅力的で、彼が主役の物語であることがはっきりしていて良かったです。同じ作品、同じ演出でも出演者が入れ替わると見え方が全然変わるのが生の舞台の面白さ! 上海まで足を運んだ甲斐がありました。
浦東空港から上海文化広場まではリニアで浦東機場~龍陽路(約8分 50元、航空券の半券提示で40元)、隣接した地下鉄2号線で龍陽路~人民広場、乗り換えて地下鉄1号線で人民広場~陝西南路(地下鉄所要時間29分、4元)。土曜午前の1号線はまあまあ混んでました。
上海文化広場の最寄り駅、地下鉄1号線陝西南路駅周辺の様子。ユニクロの下が駅です。
劇場にメール予約していたMOZART!のチケットは、チケット売場で当日VISAカード支払い・発券。窓口は10時半過ぎには開いてました。韓国の当日劇場受け取りのように発券済みではなく、係員の操作に結構時間がかかりました。最初カードが通らなくてひやっとしましたが、海外発行のVISAカードは読み取り機での扱いが異なるようで、係員が再度操作すると無事通りました。
上海文化広場、劇場入口でX線荷物検査。食べ物は持ち込み不可ですが、カバンに入れていたお土産の箱入り八つ橋はスルーでした。水のペットボトルはX線にかけたトートバッグから出すように言われて見せたところ、そのままOK。他の飲み物はNGで、検査場手前の机の上に並べられていました。検査場は長蛇の列にはなっていませんでしたが、早めに入場した方が良いでしょう。
キャスト表はプログラム販売スタンドに置かれています。配布用はありません。写真撮影OK。立てて置いてくれるともっとありがたいのですが。
会場販売グッズ。パンフレットは80元(1元=約18円)。フード付きパーカー200元(約3600円)はユニセックス。スカーフ60元、スマホケース60元、トートバッグ80元。モーツァルトクーゲルも売ってました。リーフレットはチケット売場にありました。会場の座席には、ドイツ語と中国語の歌詞が書かれた大判4つ折りのチラシが置かれていました。パンフレットの作品及びキャスト紹介は中国語と英語表記。2ページ目のキャスト一覧の女性陣の名前がずれています。男爵夫人、Nannerl、Cäciliaのキャスト名はパンフレット後半の個別紹介ページが正しいです。Kunze & Levay御大インタビューはウィーン再演版パンフの流用と思われます。
上海文化広場1階席後方からの眺め。すり鉢状なので大変見やすいです。2年前のエリザベートの時よりも観客のマナーは格段に良くなっていました。ドイツやオーストリアの観客よりも静かです! 上演中にスマホ撮影が見つかると、赤いレーザーが当てられますが、その数も以前より少なかったです。昼夜どちらも1階席はなかなかいい感じで埋まっていましたが、マチネの方が売れていたように思います。福袋チケットがロビーで販売されていた”Elisabeth”の時よりも売れ行きは良さそうでした。
上演時間は2時間45分。1幕75分、休憩20分、2幕70分。2階のトイレは空いていました。幕間にロビーのグランドピアノで思い思いに演奏する観客達。ショパンやベートーヴェン、ハノン等が聞こえましたが、私の耳に入った限りではモーツァルトは誰も弾いていなかったようです。子供連れの観客が意外に多かったのは、中国のピアノブームの影響でしょうか。夜公演終了後、劇場ロビーのパネル前でキャストと写真撮影が出来るサービス企画あり。誰が来るかはお楽しみ。終演後、1階の化粧室に行く途中に係員に先導される衣装姿のAnna Hofbauerと2名のアンサンブルとすれ違いました。
上海文化広場の出待ちスポットは駐車場前。道路の反対側には煉瓦造りの建物が建ち並ぶインターコンチネンタルがあります。キャストの皆さんはファンとの交流を楽しんでいるので、節度のある接し方であれば問題ないです。
帰りは深夜便で帰国する友人とタクシーで空港直行。23時以降の深夜料金で劇場から浦東空港まで219元(約4000円)、渋滞もなく45分で到着しました。空港行きのリニアは龍陽路発21:40が最終なので、夜公演を観劇すると間に合いません(2016年12月現在)。
帰国後ほどなくしてWien再演版でColloredoを演じたMark Seibertが、現在タイトルロールで出演中の”Schikaneder”を抜けて”MOZART!”上海公演にゲスト出演するというニュースが飛び込んできました。1月11、12、14日夜、15日昼の計4公演に登場し、公演終了後にはサイン会を行うというMarkの大サービスを目当てに、日本から駆けつけるファンの方々もいらっしゃることでしょう。是非レポートをお願いしたいものです。
それにしても日本で大変人気がある”MOZART!”の引っ越し公演が先に中国で実現したことは、Vereinigte Bühnen Wien(VBW、ウィーン劇場協会)の中国市場重視の姿勢を見たようで、内心穏やかならぬものがあります。ここのところしばらくウィーンミュージカルとのご縁がないですが、そろそろ日本でもビッグイベントの開催を期待しています!
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