1997年10月4日にWien(ウィーン)・Raimund Theaterで世界初演の幕を開けた”Tanz der Vampire“(ダンス・オブ・ヴァンパイア)。これまで820万人以上を動員し、14カ国12言語で7700回超の公演が行われた大人気作品は、2017年に20周年を迎えます。2017年9月30日からRonacherで始まる再々演版のキャストは、1400人を超える応募者の中からオーディションを経て選ばれました。
2017年6月13日のキャスト発表の模様はVereinigte Bühnen Wien(VBW、ウィーン劇場協会)サイト及びFacebookページ”Tanz der Vampire im Ronacher (Wien)“でライブ中継されました。作品、スタッフ、キャスト紹介及び歌唱披露から成る約1時間の記者会見動画は、イベント終了後に早速ネット上にアップされました。その内容を以下大まかに紹介します。なお冒頭5分間ほどは音声が入っていません。
記者会見の司会を務めるChristian Struppeck氏が”Tanz der Vampire“を初観劇したのは、1997年10月の開幕直後。2012年にVBWミュージカル部門監督に就任後、TdVの再演はいつかと聞かれなかった日は一日たりともなかったというStruppeck氏、20周年という相応しいタイミングでの再演を誇らしげにアナウンス。
会見中に上映されたトレイラーでは、Wien版以外にドイツ・日本・ロシアの映像が登場しています。
監督のCornelius Baltus氏は1400人を超えるオーディション応募者の中から選りすぐりのメンバーを再招集し、ワークショップを経てそれぞれのキャラクターに相応しい役者を選抜したと明かします。初演版の監督を務めたRoman Polanskiの右腕を1999年から務め、Wien版をドイツでの最初の公演地Stuttgart(シュトゥットガルト)に持って行く手助けをしたBaltus氏。Polanski監督が”Tanz der Vampire”の生みの親だとすると、Baltus氏はある意味メリー・ポピンズのような養育係的存在、育ての親ともいうべき立場でこの作品と関わってきました。
衣装及び美術担当のKentaur氏は”Tanz der Vampire”のハンガリー、ロシア、ベルギー公演及び2009年のWien再演版にも参加しています。320着の衣装、220足の靴、150個のウィッグを使用するこの作品、衣装制作に当たってはトランシルバニアで資料を集め、当時の雰囲気を再現したそう。2009年再演時の衣装が幾つか紹介されます。伯爵の衣装はハンガリー由来のアッティラという紐飾がついたコート。その隣はトルコの軍服がモデル。シンプルに見えるものの、実は最も高価なSarahの赤いドレスは日本の素材が使われているとのこと。2000個のスワロフスキーが使用されています。右端の女性の衣装はハンガリーの貴族で拷問具「鉄の処女」を好んだ殺人狂として名高いエリザベート・バートリの衣装がモデル。一つの衣装を制作するのに一ヶ月を要するそう。
Baltus監督が明かす異なる言語・文化を持つ国に合わせたちょっとした改変のエピソード。例えばポーランドではChagalが「俺はユダヤ人の吸血鬼だから十字架は効かない!」と十字架を地面に投げ捨てる行為はNG、上演劇場を教会から借りているからというのがその理由。なのでそっと樽の上に置くという解決方法がとられたそう。またロシアでは伯爵の息子でゲイのHerbertがAlfredに向かって言う「素敵なお尻だね」がNGワード。この台詞を入れると18禁になってしまうため、「綺麗な形だね」と誤魔化したそうです。
その他のスタッフの名前がStruppeck氏から紹介された後、原作映画『吸血鬼』(Dance of the Vampires)を制作し、Wien初演版の総指揮を執ったRoman Polanski監督からのメッセージ動画上映。当初はここまでこのミュージカル化が成功するとは思っていなかったというPolanski監督。彼の手を離れて生き続ける吸血鬼達の活躍に満足そうな笑顔を浮かべています。
この後はいよいよキャスト紹介。Koukol(クコール)役のFlorian Resetarits、背が高く体格も良く、陽気に喋るこの人が、背中を終始丸めている『ノートルダムの鐘』のカジモド的な格好を強いられる役をするのはいささか勿体ないような気もしますが、御本人は今からKoukolの姿勢を練習中とのこと。Magda(マグダ)役のMarle Martensは2009年のWien再演版にも出演していましたが、今回は晴れてファーストキャストとして登場。”Schikaneder“(シカネーダー)ではEleonore役のセカンドを演じているMarle、クラシックな唱法が求められる役からロックテイストな”Tanz der Vampire”への切り替えぶりが聴き所。”Elisabeth“上海公演でセカンドとして気が強いElisabethを見せてくれたMarle、彼女のMagdaもきっと力強いことでしょう。今から大変楽しみです。
Herbert(ヘルベルト)役のCharles Kreischeは、何とこれがプロのミュージカル俳優としてのデビュー。ドイツ・Hamburg(ハンブルク)にあるStage Entertainmentの創始者Joop van den Endeが創立し、少数精鋭教育で知られるミュージカル俳優養成所Joop van den Ende Academyで勉強した新人です。TdVは最初に見たミュージカルの一つ、その作品にこうして出演出来るとは素晴らしいと笑顔を見せています。Rebecca(レベッカ)役のDawn Bullockはオランダ出身。ドイツ語はまだ始めて1年程だそうですが、非常に流暢に話しています。TdVはライブでは見たことがなく、実はYouTubeで見ましたと衝撃の告白! その夫Chagal(シャガール)役のNicolas Teneraniはフライトの関係でキャスト紹介に間に合わず、後ほど合流予定とのこと。Nicolasはドイツツアー公演でも同役を演じています。
Professor Abronsius(アブロンシウス教授)役のSebastian Brandmeirは、スイス・St. Gallen(ザンクト・ガレン)の新演出版”Tanz der Vampire”に教授役で出演中。VBWのプロダクションでは”MOZART!“と”Elisabeth“ツアー公演に参加した経験があります。”Tanz der Vampire”を見たことありますかという質問、Alfred(アルフレート)役のRaphael Großは10歳の頃、お母さんからのクリスマスプレゼントで見たけれどちょっと怖かったと思い出を語っています。現在Musik und Kunst Privatuniversität der Stadt Wien(ウィーン・コンセルヴァトリウム音楽大学)に在学中のRaphael。教授役のSebastian Brandmeirも同校出身です。Alfred役が決まった時、多くの同級生が叫び声を上げ、中には泣き出した人までいたとのこと。授業の前にVBWから着信があったものの、授業後にかけ直して吉報を知った真面目な青年Raphael。お母さんに電話すると泣いて喜んでくれたそうです。Sarah役のDiana Schniererも偶然にもRaphaelと同じ大学の現役学生。彼女もやはり大興奮状態で、母親に電話して役を得たことを知らせたそう。電話の向こうでやはり泣き出した彼女のお母さん、「あなた本当にちゃんと理解したの? もう一度電話しなくて大丈夫?」と興奮状態だった模様。DianaもRebecca役のDawn Bullockと同様、まだTdVの生の舞台は観たことがなく、YouTubeで見たとのこと。まだ多くを経験していない少女の役は自分に重ねられると思ったDiana、でももう既にちょっとした経験を積んでいるでしょうと水を向けられ、「ええ、ちょっとね」と答える様がなかなかSarahらしくコケティッシュ。
そしていよいよ伯爵登場。一人ではなく複数の伯爵役がいることが紹介され、Wienでは既にお馴染みのスター、Drew SarichとMark Seibertが姿を現しました。MarkもDrewも既に伯爵役を演じた経験がありますが、20周年記念公演に出演すること、全ての始まりの地であるWienで伯爵役を演じることについて、DrewとMarkがそれぞれの思いを語ります。Drewと”Tanz der Vampire”の出会いは遡ること1998年のNY。タイムズ・スクエアのCDショップの輸入CDコーナーで当時21歳のDrewが手にしたCDを裏返すと、初代伯爵Steve Bartonが牙を剥いた写真が載っていたそう。当時まだ何も知らない若者だったDrew、こんなのは滅多にない、超クールでやばい!と思ったようですが、ドイツ語もまだ分からない頃だったため、CDはそっと元に戻したそう。ドイツでは伯爵を演じたものの、今回がWienでの伯爵初お披露目となるMarkは、ドイツ出身とはいえここ15年間はWienを主要な拠点として活動していること、またTdVはWienに属しているという思いがあるため、Wienで演じられることを非常に楽しみにしているそう。各伯爵がお互いに演技プランについて意見交換するかという質問に対しては、Markは真面目にリーディングチームと話し合って・・・と答え始めますが、Drewは「僕は左にしか行かない」と早くも自由気ままな反応。リーディングチームと一人一人の個性に合わせた伯爵像を創り上げる自由があることは素晴らしい、ファンも各伯爵の違いを熱心に探していると言うMark。
吸血鬼物つながりでStruppeck氏が言及した”Lestat“(レスタト)は、映画”Interview with the Vampire“(インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア)の原作小説”The Vampire Chronicles”に着想を得たブロードウェイミュージカルで、DrewはArmand役でNY公演のオープニングキャストとして参加し、後にはLestat役も演じました。Struppeck氏は現地で観たそうで、そこからNYとドイツやWienで主役を演じることの違いを質問。Drew曰く、一つだけ違うのはNYにはとにかく数多くの作品、出演者、制作会社が存在し、市場が大きい、しかし質に関してはこちらにも素晴らしい出演者や輝かしい数々の作品、何より世界一のオーケストラがあると完全にWienサイドな発言に拍手喝采。
過去の公演での面白エピソード紹介のリクエストに対して、「ハプニングならいつも起こってるよ!」と笑い合うMarkとDrew。”Gott ist tot“(神は死んだ)の場面で客席後方から伯爵が登場し、狭い通路をゆっくり舞台に向かいますが、Drewがロビーから舞台へのルートをしずしずと歩いていたところ、公演中にもかかわらず誰かが反対側から自分に向かって来るのが見えたそう。その客をそのまま通すか、席に戻るよう脅かしてとマントを持っていた係員に指示されたDrew、目の前に来たその年配の男性客を威嚇しようとしたところ、焦った様子で「トイレに行きたいけれど、何処ですか?」と聞かれたそう! その後”Gott ist tot”を歌うのはなかなか厳しかったとおかしそうに語るDrew。・・・実は私自身も同じような経験をしたことがあります。フライト遅延で開演時間に間に合わず、係員の指示でロビーで入場待ちしていたところ、ロビーの奥からマントの裾を持った係員を従えてDrew伯爵がゆっくりとこちらに向かって来るではありませんか! 思いっきり目が合った瞬間、にやりと笑みを浮かべたDrew伯爵は、そのまましずしずと客席に消えて行ったのでした・・・。紹介されたエピソードと自分の体験があまりにも似ていたので、Drewが遭遇した客が年配の男性だったと言うまでは心臓が止まりそうでした!! 自分の出演時にはもっと色々なことが起こるかも、ひょっとしたら年配の男性が二人現れるかもと言うMarkはまだ短期間しか伯爵を経験していないので、特に語るべき面白エピソードはないようでしたが、これから起こりうるあらゆるハプニングに対してオープンに構えるそう。
そして第三の伯爵としてThomas Borchertの出演も発表されました。キャスト発表の場に来ることが出来なかったThomasは、メッセージ映像で登場。14年もの間伯爵を演じてきたThomas、20周年記念公演で第二の故郷と思っているここWienでこの役を再び演じられることが楽しみであり、誇りに思うと語っています。「君達に会うのを楽しみにしている、そして全員の血を綺麗さっぱり吸い尽くすことを!」と大口を開けて牙をむき出すThomas伯爵。子供の頃吸血鬼を怖がっていたAlfred役のRaphael Großに、伯爵姿のThomasは怖い?とからかうように話しかけるStruppeck氏。
お待ちかねの歌唱披露は動画の54:30頃から。Sarah役のDiana SchniererとAlfred役のRaphael Großによる”Draußen ist Freiheit“(外は自由)、DianaとMark、Drewの両伯爵による”Totale Finsternis“(愛のデュエット)の2曲がピアノ伴奏で披露されました。まだ20歳の若い現役学生カップルによるデュエット、二人とも素晴らしい歌声で、それぞれが持つ雰囲気も役柄に合っています。特にRaphaelは誰もが納得するAlfred役になりそうな予感! Sarah役のDianaは単に可愛いだけでなく、自分に女性としての魅力があることを十分に自覚している小悪魔的な狡猾さを上手く表現してくれそうです。まだ荒削りなSarahですが、稽古を経てどんな蝶に変身するかが楽しみです。ちょっとアクセントがあると思ったら、スロヴァキア出身とのこと。Raphaelはドイツ出身です。二人の伯爵に思われるSarahという贅沢なシチュエーションの”Totale Finsternis”、本編ではあり得ないMarkとDrewの共演は聴きごたえあり! Dianaも新人ながら物怖じせず二人に対峙しています。伯爵達とSarahの実年齢差は相当あるのですが、特にMark伯爵は気をつけないとこのSarahには逆に手玉に取られてしまいそうです。
最後に再びキャストとリーディングチームが舞台上に集まり、Struppeck氏の挨拶で記者会見はお開きとなり、動画中継は終了。この後は写真撮影やインタビューが行われました。
VBWサイトでは”Tanz der Vampire”の公演期間は2017年9月30日から2018年3月18日までとなっています。各伯爵の出演期間は、Drew Sarichが2017年9月30日から11月9日まで、Mark Seibertが2017年11月10日から12月31日まで(11月14、21、30日及び12月15~17日を除く)、Thomas Borchertが2018年1月3日から2月15日まで(2月3日を除く)。2月中旬以降の伯爵が誰になるかは今のところ不明です。また現時点で公表されている各伯爵の休演日以外にも、コンサートや他の舞台への出演、カバー伯爵が一定回数出演する契約になっている等の理由により、本役が出演しない可能性があります。出演情報等についてはDrewはTwitter(@DSarich)、Facebook、Instagram、MarkはFacebook及び公式サイトmark-seibert.com、ThomasはTwitter(@Th_Borchert)、Facebook、Instagram、公式サイトborchertsupport.comで発信しています。但しDrewは他の二人ほどマメではありません。
生誕の地に新生キャストと戻ってくる”Tanz der Vampire“、是非観に行きたいものです。
Tanz der Vampire
Graf von Krolock: Drew Sarich(2017年9月30日~11月9日), Mark Seibert(2017年11月10日~12月31日), Thomas Borchert(2018年1月3日~2月15日)
Sarah: Diana Schnierer
Alfred: Raphael Groß
Professor Abronsius: Sebastian Brandmeir
Chagal: Nicolas Tenerani
Magda: Marle Martens
Herbert: Charles Kreische
Rebecca: Dawn Bullock
Koukol: Florian Resetarits
Walk in Cover Graf von Krolock: Florian Fetterle
Walk in Cover Professor Abronsius, Chagal, Nightmaro Solo: Fernand Delosch
Ensemble, Nightmaro Solo: Vini Gomes
Ensemble, Nightmaro Solo, Cover Graf von Krolock: Filippo Strocchi
Ensemble, Cover Sarah: Abla Alaoui
Ensemble, Cover Sarah: Anetta Szabo
Ensemble, Cover Alfred: Christopher Dederichs
Ensemble, Cover Professor Abronsius: Luc Steegers
Ensemble, Cover Chagal: Martin Stritzko
Ensemble, Cover Rebecca: Floor Krijnen
Ensemble, Cover Magda: Anja Backus
Ensemble, Cover Magda, Cover Rebecca: Tanja Petrasek
Rote Stiefel Solo, Tanz-Ensemble: Lucy-Marie Fitzgerald
Weißer Vampir, Tanz-Ensemble: Jasper Caransa
Schwarzer Vampir, Tanz-Ensemble: Arltan Andzhaev
Tanz-Ensemble, Cover Weißer Vampir: David Baranya
Tanz-Ensemble, Cover Schwarzer Vampir: Jordan Hinchliffe
Tanz-Ensemble, Cover Schwarzer Vampir: Fabian Lukas Raup
Tanz-Ensemble, Cover Rote Stiefel Solo: Martina Borroni
Tanz-Ensemble, Cover Rote Stiefel Solo: Vanessa Spiteri
Tanz-Ensemble: Julia Waldmayer
Tanz-Ensemble: Maja Luthiger
Swing, Cover Alfred: Daniel Eckert
Swing, Cover Herbert, Cover Nightmaro Solo: Christoph Apfelbeck
Swing: Susanna Panzner
Cross Swing, Cover Herbert, Cover Weißer Vampir: Jan-Eike Majert
Cross Swing: Tamsyn Blake
Cross Swing: Anouk Rietveld
Cross Swing: Morten Daugaard
Ronacher
Seilerstätte 9, 1010 Wien
Austria
https://www.musicalvienna.at
Tel: +43 1 58885
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